私と鉄道模型の60年(12)–松本謙一 ストラクチャーへの想い

ストラクチャーへの想い―――松本謙一(日本鉄道模型リサーチ‐ A.B.C.)




FABご贔屓の皆さま、明けましておめでとうございます。本年も本格派モデラーのオアシス、FABにますますのご愛顧を賜りますよう、私からもお願いを申し上げます。



正月休みというのは、モデラーにはひときわ心浮き立つ期間ではありませんか?「今年はあれを作って、これを組んで‥」と夢が広がります。私の場合はまず、永年恒例の「年越し運転」(もう48年続けています)がありまして、その前後は数日間模型三昧です。



■ストラクチャー造りで理解するアメリカ文化の「伊達」

模型づくり、といっても、私の場合、車輛工作から、レイアウトのシーナリー製作、配線、といった体育会系(?)まで、いろいろあるわけですが、寒い時期は何といってもストラクチャー造りですね。



暖かい部屋で、コーヒーやパイプ煙草を味わいながらの軽工作として、まことに打ってつけです。カッティング・マット、カッター・ナイフ、ピンセット、数種の接着剤、文鎮、定規、ノギス、小型ニッパー、仮止め用に洗濯バサミ数個とマスキング・テープかセロテープ、筆塗り用の若干の塗料程度があれば十分で、それらを一箱に集めておけば、食卓の上でも十分に工作できます。



父が私にストラクチャーの自作を手ほどきしてくれたのが小学校4年生の時だったと思いますが、それ以来、ストラクチャー造りは私にとっては車輛工作以上に夢を感じる存在であり続けてきました。なぜ、といっても一言では説明はできないのですが、ストラクチャーがかたちになっていくのを目の当たりにすると、心が浮き立ってくるのです。



江戸時代の天保年間(遠山の金さんの実在したころです)から幕末までの我が家の先祖は江戸城内住み込みの大工の棟梁を務めていたようで、「建物」というと先祖伝来の血が騒ぐのかも知れません。



■Revell / Engine Crew Shanty

私が小学校4,5年生の頃だから1960年前後に米国プラスティック・モデルの先駆、Revell社がHOの鉄道模型に進出し、8点ほどのストラクチャー・キットを発売した。それらは、破れた板壁や屋根、崩れたレンガ、いずれも補修痕が表現されている、というハイ・センスぶりで、その後、このセンスを超えるプラスティック・ストラクチャーは発売されていない。この乗務員詰め所は小学校5年の時に今は無き東急百貨店池袋店の模型売り場(事実上カツミの出店)で購入して、当時のプラ用塗料でジョン・アレン調に筆塗り、ポスターカラーでウエザリングも試みた。以来、全く手を加えていないが、自分のレイアウトの色調はこの1軒が基本になっているように思う。このキットは流れ流れて、現在でもCON-CORの品番9033として販売されている。50年のロング・セラーだ。


といって、日本の鉄道施設は、嫌いではないが、醤油で煮〆たような陰気臭さを、わざわざ手間暇掛けて作る気にはならず、それも、何事もレイアウト製作をベースにしている私をアメリカ型に向かわせ続けてきた要因の一つです。アメリカの建物というのは一概に解放感がありますね。フィート、インチのもたらす開放感、とでもいいましょうか?たとえばトヨタ車とアメ車を比べた時に、腰一つ分、繰り込みを下げた窓辺の粋さ加減、そうした思い切りの良さがそれを象徴しています。長崎でグラバー邸に行ってみれば、窓に対する伝統の違いは一目瞭然です。戦後、日本人はアメリカ文化をずいぶん真似しようとしましたが、結局中途半端に終わったのは尺貫法感覚、ついではメートル法感覚で「アメリカ」をやろうとしたからです。「フィート、インチ」がアメリカ感覚の基礎なのです。



西部劇で、ぶん殴られた奴が一回転して窓の外に転がり出ます。明治以後の日本の窓ではああは行きません。(日本人が立ってさえ腰までしかないのがアメリカの窓辺、胃の高さまであるのが日本の窓辺、という目安を覚えておくといいでしょう)ワイルドではあるけれど、その分爽快感のある=「伊達ぶり」こそ、アメリカ文化の真髄といえましょう。



そういう「フィート、インチの伊達さ」を実感させてくれるのが、アメリカの古いストラクチャーです。アメリカのストラクチャーに親しむ、ということは、とりもなおさず、「フィート、インチ感覚に慣れる」一番の早道だと思います。





■Campbell Scale Models製品で構成した農場

小物パーツが最小限しか入っていないためにCampbell製キットを軽く見る人も少なくないが、米国ではそれでもロング・セラーとなっているのは建物本体のデザインが魅力的だから、と見ることも出来る。お仕着せの小物をデザインの一部にしていない分、造り手には自由な発想がしやすい、ということもある。この農場風景は、そうしたCampbellのBarn、Farm House、Farm Co-Op Creamery Montgomery Feed & Seedを組み合わせ、周囲を他社製の人形や動物、小物、自動車、農機具、農作物、小屋などで満たしている。人形や小物の配置でオリジナル・ストーリーを創作するのがレイアウト製作の真骨頂だ。


■Campbell Scale Models / Skull Valley Station

「村はずれの駅」といった風情の、木造駅舎としては中サイズ。荷物保管室を短縮して、小サイズにアレンジすることもできる。デザインの優れたものが多いCampbell製品の中でも、特に秀逸なものの一つと思う。私のレイアウトでは、スタンダード・ゲージ支線とナロー・ゲージ支線の乗換駅に配置している。



■Campbell Scale Models / Sherry’s Scarlet Slipper Saloon

Campbell社はバスウッドを基材としたストラクチャーのクラフト・キットでは老舗の中で最も有名な存在。自家製の部材の寸法が大変正確で、構造も手堅く、誰にでも迷わずに組める点で、バスウッド・ストラクチャーを理解するのに最適。この西部劇風の酒場は私が組んだ最初のCampbellキットで、築40年近い。


■何といっても大きい、G&D鉄道のインパクト

FABに来店されるグレードならば、レイアウト術の天才、ジョン・アレンの「G&D鉄道」に惹かれた方は多いと思いますが、私の場合は、その出会いがほとんど人生の究極目標を決定してしまった、といえるほどのインパクトでした。



最初にTMSの別冊レイアウト本で「G&D鉄道」の写真を見たのも、多分、小学校3年か4年ぐらいだったと思います。なぜなら、4年生の時に自作したボックス・カーにすでに白い菱型のエンブレムを描いているからです。あの、実物か、と見まがうような写真を目にしたときには、子供ながらに全身が震えましたね。そこで当時の日本のレイアウトの水準との驚くような格差を感じ、「これは、シーナリーとストラクチャーはリアルに作らなければ!」と肝に銘じたわけです。車輛の細かなディテールより、それを取り巻く環境のリアルさの方が、はるかに実感に迫れるのだ、ということを教えてくれたのが「G&D鉄道」でした。



■Fine Scale Models / Engine House

Campbellと対照的に、こちらは近年、大量の小物パーツを基調にしたデザインの製品を限定発売していることで名高いメーカーだが、デザインそのものは昔の製品(添え付けの小物パーツがほとんど無いか、さほど多くない)の方が素直で、明るさもあり、はるかに良かった。近年の製品はやや怪奇調で雰囲気が陰気に感じられ、私は好まない。しかし初期の製品には「同種でいまだにこれを超えるものは無い」と断言できるものもある。この矩形2線機関庫は急逝したジョン・アレンを偲んで、G&D鉄道のGoree機関庫を再現した、というもの。新旧2回製作され、2回目の方が、鋳物パーツが増えた一方、建物のサイズは若干小さくなっている。第2回目に比べると表現は大まかだが、初回の方がジョン・アレン作品の雰囲気を伝えているように、私には思える。2棟とも平井憲太郎氏の組み立てで、初回製品は「とれいん」誌創刊号の表紙を飾った。



■Fine Scale Models / Station

この駅舎も、雰囲気が明るかったころのF-S-M製品で、木造駅舎としては大型に属する。この建物もそうだが、私の組むストラクチャーはすべて、屋根、壁、床のいずれかを、はめ込み構造にアレンジしてあり、あとから窓ガラスの貼り直し、電球の交換、インテリアの造りこみが出来るようにしてある。



■Fine Scale Models / Coaling Tower

米国では機関庫のみならず、途中のヤードや、本線の途上にも中継用の給炭設備を設けていた例がごく普通だった。これは、どちらかといえば、そうした用途に向きそうなサイズのコーリング・タワー。F-S-Mのキットに入っているバスウッド部材も、寸法にバラつきが無く、合わせは正確に運ぶ。これは本体を私が組み、手すり、シュートなど、周囲のディテールを平井憲太郎氏が仕上げたもの。


■豊富なストラクチャー・キット

いろいろなスケールがある中で、私がアメリカ型HOに惹かれた理由を別の角度からお話しますと、私の少年時代から、すでにストラクチャー製品が豊富だった、ということもありました。のちにはさらに「人形の豊富さ」が加わり、決定的になりました。



「鉄道のある情景」を、ストーリー性を与えつつ再現したい私には、車輛のディテールの細密なことより、「製品の豊富さ」は優先度の高いものでした。



私の鉄道模型観は「自分なりの味を出すことは大事だが、市販の製品で使えるものはなるべく利用する」というものです。人間の一生にはどうあがいても絶対時間の限りがあり、自作主義に徹していては、大きなテーマ=1個の鉄道、を完成するにはとても足りないのではないか?と少年時代に考えまして、以来ずっと、その方針でやってきました。



「車輛は完成品かキット、ストラクチャーは原則クラフト・キット」これは、資料集めから設計、部品からの製作にその都度時間が掛かっていてのでは、到底レイアウトの完成まで行き着けない。どうしても自分でしか出来ないものは何か、と削ぎ落としていくと、とどのつまり「自分が求めるレイアウトの構成だけは自分でしかできない」だから、自分は、市販のものを極力使い、それらの調和させることで自分の思い描く世界を創ることに集中する、という結論を導いたわけです。



私が時代的に恵まれていたのは、小学校5年から中学に上がるぐらいに掛けて、アメリカのプラモデルの先駆であったRevell社の非常に表現の優れたHOストラクチャー・キット(何と、そのいくつかは、50年後の今でも発売元を変えて販売されているのです!)が日本に入ってきたり、天賞堂がアサ―ンのプラスティック貨車などと共に、印刷済みのボール紙やバスウッド角材で構成した本場のストラクチャー・キットを輸入し始めたりしたことでした。それらに取り組んだことは、私にストラクチャー工作への自信をある程度、深めさせました。



ちょうど二十歳前後には天賞堂がCampbell、Fine Scaleといったメーカーの、本格的なクラフト・タイプのストラクチャー・キットを輸入するようになり、そのバスウッドの質感の良さ、組立ての面白さに、すっかり魅了されてしまいました。やがて結婚しますと、ちょうど現役の蒸機も国鉄線から姿を消して撮影に出ることもなくなり、マンションの新居の机一つでやる工作としてもちょうど好く、一時は毎週1軒完成という、猛然たる勢いで取り組みました。



この時期に組んだものが、今日、我が家のレイアウトのストラクチャー群のベースになっています。ある程度の数のストラクチャーが完成していたので、それらを置いていくことで、レイアウトのイメージがまとめやすかった、ということはあったと思います。一般には「レイアウトは線路を敷いて、それからシーナリー、ストラクチャー」という手順がイメージされていますが、私の場合、全くその逆を歩んで正解だった、といまになって感嘆している次第です。



■Scale Structure Limited / Twin Water Tanks

ストラクチャー・キットよりも、膨大な種類のストラクチャー周辺小物パーツで有名なメーカーだが、すでに3回オーナーが替わりながら、もう40年近く、しぶとく生き残っている。バスウッド部材の寸法にバラつきがあるのが難点だが、図面が完備しているので、それをコピーして冶具に使えば、まず大勢に影響なく組み上がる。この古典的な給水塔も、背後のターンテーブルも、35年ほど前の製品だが、いまでも販売されている。

FAB注:ウォータータンクとターンテーブルに挟まれた小柄なラウンドハウスはF-S-M製品


■私好みのストラクチャー・キット

断然、バスウッドを使った木製キットが好きで、石造建築では石膏鋳物のキットも好みです。計測や切断を要することから「クラフト・キット」と呼ばれるものです。



プラスティック製キットに比べて余程手間がかかりそうですが、実は一体成型されたものより、パーツごとの塗り分けが出来る分、塗装が簡単で、確実に綺麗に仕上がるうえに、何といっても本物の質感を出る点では、どうプラスティックを手間暇掛け、いじり回してもかないません。



バスウッドにしても、石膏にしても、塗料を内面まで吸収する素材ですから、深い色合いが出せますし、バスウッドでは木目と塗料の具合で偶然の面白い効果が現れます。その面白さが何といっても魅力です。



もう一つ、私にとって欠かせないのは、組んでいくうちに「手成りのゆがみ」が出て、これが却って本物らしく見えることです。木造家屋や古い石造家屋は、経年変化や、そもそも最初からアメリカの大工さんの大雑把さで、大なり小なりのゆがみが現れています。



近年、中国の安価な金型製作費を利用して多発されているプラスティック製キットは、あまりにも正確に直角、水平が出ているために、私には非常によそよそしく、冷たいものに感じられて、どうもなじめません。



その点、塗っておいたパーツを一つずつ接着していくクラフト・キットでは、その接着の都度、どんなに気を配っても若干のずれ、ゆがみが出ますが、それが却って建物の温かさ、実感味をかもし出すのです。不器用×不運の塊のような私には全く好都合です。





■Model Masterpieces / Como Roundhouse
このメーカーは軽量石膏(ハイドロカル)の鋳物を基本部材にしたストラクチャーを製造していたが、近年ウオルサーズのカタログからは消えてしまっている。輸送途中に破断しやすいのが難点だったが、そのための接合補修用の石膏粉もちゃんと入っている、という用意周到な?キットだった。しかし、着色した味はさすがに実感的で、組み甲斐はある。ベースに固定しながら組めば丈夫。このモデルはColorado州ComoにあったColorado & Southern鉄道の石造扇型庫で、建物は現存している。


さらにいえることは、クラフト・キットのほとんどはサイズが小振り、ということです。ストラクチャー専門の小メーカーばかりですので、どこか見せ場、特徴のある建物がプロトタイプに選ばれている反面、値段の都合か、部材の取り都合か、あまり大きいものは無く、それが却って、レイアウトやモジュール、ディスプレーには組み込みやすい、ということです。昔、Campbellの社長と話したとき、この点については「自分のところは、小型レイアウトに組み込みやすい、ということを常に意識して、製品企画している」といっていました。



ジョン・アレンもG&D鉄道を仔細に分析しますと、それぞれのストラクチャーをかなり小振りに押さえて、それでレイアウト全体を雄大に見せる、というマジックを使っていることが判ります。やはり、「右に並ぶ者無き天才」ですね。
(以下、次回)